生涯学習概論(5701)レポート 近大通信教育部図書館司書コース

近くに同じ学生がいない環境で通信教育を受けるのは意外と孤独で、
困ったり悩んだりしたときに、
ネットにある先輩方のレポートはとても参考になりました。
ので、私もつたないレポートですが放出してみます。
このレポートは入学して初めて書いたものなのでもう3年も前のものですが、
設題が変わっていても大事なところは意外と共通していたり、
また何年か経つと設題が戻っていたりしたので公開してみますね。
生涯学習概論は、私が取っていたころはレポートの返却も早くて、
とても親切な先生だったと記憶しています。
初めにレポートに取り掛かるにもなかなかやりやすい科目だったと思います。

【生涯学習概論設題】

ラングランの生涯教育的思想とリカレント教育の社会的背景について考察せよ

【生涯学習概論レポート】

1. 本レポートでは、ラングランの生涯教育的思想とリカレント教育の内容を示し、それらが生まれた社会的背景を交えて考察する。

2.【ラングランの生涯教育的思想】
 1965(昭和40)年にパリで開催された、ユネスコ(国際連合教育科学文化機関)の成人教育に関する会議において、ユネスコの成人教育部長であったポール・ラングランが「éducation permanente」というフランス語を用い、教育に新しい概念を提唱した。「éducation permanente」つまり、生涯教育という考え方は、教育を学校において行われるものとだけ考えるのではなく、それ以前や以降にも生涯にわたって時系列的に行われる教育と併せて考えるべき(垂直的統合)であり、またそれと共に、学校の他に社会のさまざまにおいて存在する教育に関わる組織で行われる教育とも併せて統合的に考えるべき(水平的統合)であるという考え方である。学校以外で行われる教育を学校教育と同じように統合的に考えるべきであるということが生涯教育の基本的な考え方である。

3.【生涯教育的思想が生まれた背景】
 ではなぜそのような生涯教育的思想が生まれ求められたのか、その背景について考察する。第2次世界大戦後の世界では科学技術が急速に発展していった。例えば日本においてはテレビや新幹線が登場し、世界においては宇宙や原子力の開発が進んでいった。そのように科学技術が発展すればするほど、学校で教わった若年期に得た知識は刻々と古くなり、その知識だけではその後の人生を生きて行くのが難しくなっていったのである。また戦後民主主義の理念の確立により、ひとりひとりの個人が社会を動かし発展させていく原動力として考えられるようになった。そのようにして、生涯を通じての教育の機会が整備されるべきであると考えられた。
 日本を含む後進国においては、戦前より学校を整備し国民の学力向上を図り先進国を追いかけていたが、戦後爆発的に技術が発展していく中でそれだけでは事足りず、学校教育以外のあらゆる場面での統合的教育が全世界社会の課題となった。このように、生涯通じての教育が社会に必要とされる重要な考え方となったのである。

4.【リカレント教育】
 リカレント教育とは、「リカレント」つまり「循環・回帰」という言葉の意味が示すように、生涯にわたって労働と教育を交互に何度も繰り返すことのできる、文字通り、循環的に学習する機会を得ることのできる教育システムのことである。それまでの教育は、学校での教育を終え知識を得た後就労したならば、その後教育の機会を得ることはなかったが、変化の激しい社会の中で、就労の現場で求められる最新の技術や知識に対応するには、就労後にも教育を受ける必要があり、企業の立場に立ってみても企業の発展のためにこの考え方は必要とされた。
 このリカレント教育の考え方は、1960年代後半、スウェーデンのパルメ首相により提起され、OECD(経済協力開発機構)が1973年に発表した報告書により提唱された生涯教育政策の具体的構想として受け入れられた考え方で、経済に関わる団体が提唱しているということもあり、教育と労働とを強く関連付けているという特徴がある。
 リカレント教育を実現させるためには多くの課題もある。就労後も教育を受ける権利について社会全体で理解し、有給休暇などの制度の充実が必要不可欠である。さらに、教育施設、教育を受けやすくする条件や制度、教育カリキュラムの整備、また教育を受けたことがその後のキャリアにおいて正当に評価される社会でなければならない。
 日本においてのリカレント教育の考え方は、日本独自の雇用システム、企業特性などから、フルタイムでの学び直しではなく就業しながらの学習が主流で、言葉通りのリカレントモデルを主張しているOECDの考え方とは少し異なる面もある。しかし昨今においては、日本も人生100年時代の到来やIOTやAIなどのさらなる技術革新が進展した世界を鑑み、誰もがいくつになっても学びなおし、転職や復職、起業等を円滑に成し遂げられ、活躍することができる社会を構築する必要があり、その実現に向けてリカレント教育の充実を一層推進し、関係各庁が連携して制度や環境を整備しなければならないといった現代社会に即した内容を打ち出している。(注1)

5.おわりに
 本レポートでは、個人志向の強いラングランの生涯教育的思想と、労働志向の強いリカレント教育について考察してきた。志向の違いはあるが、どちらも社会の大きな変化から生まれ、また生涯教育政策に大きく影響を与え問題を提起し、世界中で議論されてきた。だがしかし、日本においてはいまだこれらの思想が目指すところには到達していない。教育機会の充実や施設の整備と共に、教育のための長期休暇制度の整備や、教育を受けた経歴を受け入れることのできるフレキシブルな企業環境の推進により、人々が学びやすくキャリアを十分に活かすことができる社会で、個人と社会が一緒に発展することができるとよいと思う。

(注1)
総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇親会(内閣府HP)『文部科学省におけるリカレント教育の取組について』
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20201001/siryo2-2.pdf
(2020年最終閲覧日記入)

【参考文献】
鈴木眞理・ほか編『生涯学習概論』2019、樹村房
香川正弘・ほか編『よくわかる生涯学習 改訂版』2016、ミネルヴァ書房
伊藤敏夫・ほか編『新訂生涯学習概論』2011、ぎょうせい

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