図書館制度・経営論(5704)レポート 近大通信教育部図書館司書コース
【図書館制度・経営論設題】
組織づくりの諸原則の5項目を取り上げ、それぞれについて述べるとともに、図書館法第3条(図書館奉仕)に掲げられている九つの事項の学びから、これらを実現するためにはどのような図書館組織の構築が望ましいか、あなた自身の考え方を含め論じなさい
図書館制度・経営論レポート
1.はじめに
図書館は公共図書館や大学図書館、専門図書館などがそれぞれの理念のもと、それぞれの目的を果たすため運営されているが、その目的を達成させるために必要なのが組織である。ここでは組織作りの諸原則についてと共に、図書館法第3条(図書館奉仕)の事項を実現するための図書館組織の構築について述べる。
2.組織作りの諸原則
①スカラーの原則
組織を上層から低下層までいくつか複数の階層に分け、階層ごとに責任と権限を明確にし、命令が上から下まで一貫性を持って流れるようにするもの。
②専門家の原則
経営の効率化を図るため、専門化された業務活動が可能な組織を作ること。すなわち、組織の構成員それぞれが専門知識と熟練性を身につけ各自の担当業務を遂行できるようにすることである。この原則は、生きがい、働きがいとも密接に関係する重要原則である。
③命令一元化の原則
命令は1人からのみ受けられるような仕組みにしなければならないということ。複数からの命令は、業務に混乱が生じ業務能力や効率性の低下につながるからである。
④管理範囲の原則
スパン・オブ・コントロールともいわれ、1人の管理者が監督できる範囲には限界があり適正な範囲があるということ。通常は10人程度の部下がいる組織が適正と言われている。
⑤権限委譲の原則
上司は、ルーティーンの業務については部下に権限を委譲し、非定型化業務やより重要な問題、例外業務の意思決定に専念すべきという原則。上司がすべてに関与する組織は、人材が育ちにくく、活気ある職場の形成にも悪影響が出る。
上記の原則を念頭に置いて組織が運営されているかどうか目を配ることが必要である。
3.図書館奉仕と図書館組織の構築について
図書館法第3条には、図書館奉仕の具体的な事項を列挙している。
①「郷土資料、地方行政資料、美術品、レコード及びフィルムの収集にも十分留意して、図書、記録、視聴覚教育の資料その他必要な資料(電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られた記録をいう。)を含む。以下「図書館資料」という。)を収集し、一般公衆の利用に供すること」
図書館が収集し、提供すべきさまざまな資料について言及している。
②「図書館資料の分類排列を適切にし、及びその目録を整備すること」
現在では書誌データの作成はアウトソーシングされ、分業化が進んでいる。
③「図書館の職員が図書館資料について十分な知識を持ち、その利用のための相談に応ずるようにすること」
レファレンスサービスの重要性に言及しており、専門知識や能力を持った職員の必要性が述べられている。
④「他の図書館、国立国会図書館、地方公共団体の議会に附置する図書室及び学校に附属する図書館又は図書室と緊密に連絡し、協力し、図書館資料の相互貸借を行うこと」
自館の所蔵資料のみならず、他の図書館と協力して資料提供を行うことを述べている。
⑤「分館、閲覧所、配本所等を設置し、及び自動車文庫、貸出文庫の巡回を行うこと」
区域内のどこの住人に対しても、均一で質の高い図書館サービスを提供するという全域サービスについて述べている。
⑥「読書会、研究会、鑑賞会、映写会、資料展示会等を主催し、及びこれらの開催を奨励すること」
図書館利用を促進させるための機会を提供する社会文化活動支援が必要と述べている。
⑦「時事に関する情報及び参考資料を紹介し、及び提供すること」
時事に関する課題の解決に必要な資料(雑誌・新聞等)を提供することなどが必要と述べている。
⑧「社会教育における学習の機会を利用して行った学習の成果を活用して行う教育活動その他の活動の機会を提供し、及びその提供を奨励すること」
6号の規定と関連し、図書館資料を活用した社会教育活動の支援を行うべきと述べている。
⑨「学校、博物館、公民館、研究所等と緊密に連絡し、協力すること」
4号の規定とも関連し、さまざまな機関と連携して利用者が求める資料やサービスを提供すべきと述べている。
図書館で見られる組織は、図書館のすべき仕事から分けた職能別組織、図書資料の主題別に分けた主題別組織、利用者で分けた利用者別組織、資料の種類別(形態別)に分けた資料別組織、またこれらを複合的に混合した混合組織がある。上記の9つの事項に示されたように、図書館の本質的機能である、資料・情報の収集、提供をもとにさまざまなサービスが図書館には求められるが、利用者を中心とした組織の構築を考えると、主題別組織が主題専門家としての司書の育成もでき、質の高いサービスの提供を可能とするので望ましいと考える。しかし費用面、非常勤職員の増加や業務委託などによる構成員の複雑化などから、実際には混合組織が採用されるところが多い。それでもなお、各図書館の与えられた諸条件を考慮しつつレファレンスに強い組織をつくることが最大の利用者満足につながると考える。レファレンス強化を軸に、社会や利用者の求めに応じフレキシブルに組織構築がなされるべきである。
【参考文献】
毛利和弘『図書館制度・経営論[改訂版]』近畿大学通信教育部, 2019
手嶋孝典ほか編『ベーシック司書講座・図書館の基礎と展望5 図書館制度・経営論 第2版』学文社,2017